— 衣更えと三味線 —
- 﨑 秀五郎
- 5月27日
- 読了時間: 1分

六月一日は「衣更(ころもが)え」。
冬の装いから夏の軽やかな姿へと変わる節目でございます。もともとは中国の風習が奈良時代に伝わり、平安の宮中では春夏・秋冬の二季制に合わせて四月と十月に行われていたとか。江戸時代には六月と十月の年二回とされ、武家・庶民にも定着しました。
衣を替えるということは、単に身なりを整えるだけではございません。
自らの心と身体に季節の風を通し、湿気と熱気を払って新たな気を取り入れるという、いわば「人の衣替え」です。襟を正し、身軽になる。そうすることで、芸にもまた涼風が吹き込むものです。
さて、もうひとつ衣替えが必要なのが「三味線」でございます。
梅雨入りも間近、湿気の魔の手がじわじわと迫ってまいります。
とくに押し入れや通気の悪い場所に仕舞い込んだままでは、皮がたちまち緩み、木がふやけ、音が死んでしまいます。
三味線は、我らの芸の身衣のようなもの。
手にとって風にあててやる、弾いて声をかけてやる、そうして初めて生き続けます。
六月――
人も楽器も、季節とともに身支度を整えること。
それが、よき芸のはじまりにございます。
Comments